月曜日の朝。
週次の集計作業をしようと、いつもの共有フォルダにある「売上管理表.xlsx」を開く。
違和感。
あるはずのシートがない。
合計欄の数字が「0」になっている。
あるいは、セル一面に広がる「#REF!」「#VALUE!」のエラー祭り。
「え……?」
背筋が凍るとはまさにこのこと。
プロパティを見ると、最終更新者は「部長」。
土日に誰かが触り、計算式が入っている行を誤って削除し、そのまま上書き保存してしまったのだ。
バックアップ? 取っていない。
手元のデータ? 共有ファイルだから、そこにしか最新版はない。
頭の中が真っ白になる瞬間です。
今回は、そんな「共有エクセル崩壊事故」に見舞われたあなたが、まずやるべき緊急復旧手順と、二度と同じ悲劇を繰り返さないための「脱・共有エクセル」生存戦略を解説します。
1. 緊急対応:叫び出す前に「右クリック」しろ
まず、深呼吸です。
犯人(部長)を問い詰めるのは後です。今はデータの救出が最優先です。
Windowsのファイルサーバー(NASや共有PC)を使っている場合、神に祈りながら以下の手順を試してください。
手順①:「以前のバージョン」を探す
Windowsには、自動でバックアップを取ってくれている(かもしれない)機能があります。
- 壊れたエクセルファイルを右クリックする。
- 「プロパティ」を選択する。
- 「以前のバージョン」というタブがあるか確認する。
もしこのタブがあり、事故が起きる前の日付のファイルが表示されていれば、あなたは救われました。「復元」ボタンを押せば、悪夢はなかったことになります。
(※システム管理者が「シャドウコピー」を有効にしていない場合、ここには何も表示されません。その場合は次へ。)
手順②:Excelの「自動回復」機能に賭ける
Excel自体が、クラッシュした時のために保存している一時ファイルを探します。
- Excelを開き、ファイル」>「情報」をクリック。
- 「ブックの管理」(または「バージョン履歴」)を見る。
- そこに「保存されていないブックの回復」という項目があればクリック。
これもダメなら、最後の手段です。
手順③:隠しフォルダ(Temp)を漁る
PCの奥底に、作業中の一時ファイル(.tmp)が残っている可能性があります。
C:\Users\ユーザー名\AppData\Local\Microsoft\Office\UnsavedFiles
このあたりをエクスプローラーで開き、更新日時が近いファイルがあれば、拡張子を「.xlsx」に変えて開いてみてください。ゴミデータかもしれませんが、宝の山かもしれません。
……これでもダメだった場合?
残念ながら、手入力での復旧(地獄の残業)が確定です。
コーヒーを買いに行き、覚悟を決めましょう。
2. なぜ「共有エクセル」は必ず壊れるのか
復旧作業(手打ち)をしながら、怒りをエネルギーに変えてください。
そもそも、なぜこんな事故が起きるのでしょうか?
それは、あなたの管理不足ではありません。
「Excelを複数人で同時に編集・管理しようとする運用」そのものが間違っているのです。
Excelは素晴らしい表計算ソフトですが、本来は「個人のPCで、一人がじっくり作業するため」に作られたツールです(※近年のOffice 365は同時編集できますが、まだ動作が重かったり、競合したりします)。
それを、リテラシーの異なる複数人が、よってたかって編集すれば、どうなるか。
- 「フィルタ」の罠
Aさんがフィルタをかけている最中に、Bさんがデータを入力し、行がズレる。 - 「行列削除」の罠
不要だと思って消した行に、実は重要な計算式の参照先があった。 - 「先祖返り」の罠
Cさんが自分のPCにコピーして作業し、それをサーバーに戻したせいで、Dさんの作業分が消滅する。
これらは「人災」ではなく「構造的欠陥」です。
この運用を続ける限り、あなたは一生、いつ爆発するかわからない爆弾を抱えて仕事をすることになります。
3. 解決策(デジタル):Googleスプレッドシートという「タイムマシン」
地獄の手入力が終わったら、すぐに上司に提案してください。
「もう二度と御社のデータを消さないために、これを使わせてください」と。
解決策はシンプルです。
「Googleスプレッドシート」への移行です。
Googleスプレッドシートには、Excelにはない(あっても使いにくい)最強の神機能があります。
それが「変更履歴(バージョン履歴)」です。
全自動タイムマシン機能
スプレッドシートは、誰が、いつ、どこのセルを、どう変更したかを、すべて自動で記録しています。保存ボタンを押す必要すらありません。
もし誰かがデータを消してしまっても、
ファイル > 変更履歴 > 変更履歴を表示
をクリックするだけ。
そこには、1分単位でのバックアップが永遠に残っています。
「あ、昨日のお昼の状態に戻したい」と思えば、ワンクリックで時間を巻き戻せます。
これさえあれば、部長が酔っ払って全データをデリートしても、あなたは涼しい顔で「あ、戻しておきますね(所要時間3秒)」と言えるのです。
この「安心感」は、一度味わうともう戻れません。
4. 解決策(アナログ):移行できない場合の「防波堤」
「うちはセキュリティ規定でGoogle禁止なんだよ!」
「お局様がエクセル以外使うと発狂するんだよ!」
そんな悲しい職場環境にいるあなたへ。エクセルのままで戦うための、泥臭い防衛術を伝授します。
① 「入力シート」と「集計シート」をファイルを分ける
一番壊れやすいのは、計算式が入っているセルです。
だから「みんなが入力するファイル」と「集計・計算するファイル」を物理的に分けます。
- 入力用_Aさん.xlsx
- 入力用_Bさん.xlsx
- 【触るな危険】全体集計.xlsx(パワークエリやリンク貼り付けで上記を参照)
こうすれば、入力ファイルが壊れても、被害は限定的です。
② 「シートの保護」にパスワードをかける
当たり前ですが、意外とやっていないのがこれ。
計算式が入っているセルは、ロックをかけて編集不可にします。
パスワードは誰にも教えてはいけません。「忘れたので解除できません」と嘘をついてでも死守してください。
③ 「行列の非表示」は使うな、文字色を白にしろ
見せたくない計算用セルを「非表示」にすると、存在を忘れた誰かが行ごと削除します。
あえて非表示にせず、文字色を背景色と同じ「白」にして見えなくする方が、誤削除のリスクは減ります(セルがあることには気づくため)。これは古来より伝わる「汚いハック」ですが、有効です。
5. まとめ:データは「水物」。器を変えなければまた漏れる
データ消失事故は、あなたの寿命を縮めます。
失われたデータと時間は戻ってきません(スプレッドシートなら戻ってきますが)。
今回の冷や汗を教訓に、仕組みを変えましょう。
もし、「スプレッドシートに移行したいけど、複雑なマクロが組まれていて無理だ」とか、「移行の手順がわからない」という場合は、「うしろぽっけ」にご相談ください。
- 壊れやすい複雑怪奇なエクセルマクロの解読・修復
- エクセルからスプレッドシートへの安全な移植
- そもそも「その集計、自動化できますよ」という提案
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