「スマートな英文事務」? いいえ、あなたは「地図と時計と戦うファイター」であり「トラブルの防波堤」です。
「貿易事務になりたいです。英語が好きだし、海外とメールでやり取りするスマートな仕事に憧れています!」
未経験からこの職種を目指す人の多くは、ドラマや映画のような「グローバルで華やかなオフィスワーク」を想像します。
しかし、現場で戦う現役の貿易担当者は、少し遠い目をしてこう現実を語るでしょう。
「では、金曜日の夜19時、もうすぐ退社というタイミングで、地球の裏側の担当者から『ごめん、船に乗せるの忘れた(テヘペロ)』というメールが届いた時、絶望せずに『じゃあ航空便(Air)に変えて! 追加費用はそっち持ちね!』と即座に怒りの電話をかけられますか?」
貿易事務(Trade Administration)の仕事。
それは、涼しいオフィスで英文メールを書くだけの優雅な仕事ではありません。
「地図(距離)」と「時計(時差)」、そして「天気(天候リスク)」と戦いながら、荷物をA地点からB地点へ確実に移動させる「国際物流の管制官(コントローラー)」です。
あなたが書類(InvoiceやB/L)の数字を一つ間違えれば、巨大なコンテナが税関でストップし、1日数十万円の保管料(デマーレージ)が発生します。
船が遅れれば、国内の工場ラインが止まり、数千万円の損害が出ます。
今回は、そんなプレッシャーの中で、脳内に世界地図を広げて戦う貿易事務に向いている人の「リアルな適性」を5つ紹介します。
必要なのは、ネイティブのような英会話力ではありません。
トラブルを予見する「想像力」と、どんな状況でも荷物をねじ込む「突破力」です。
特徴1:【書類の狙撃手】「ピリオド一つ」のミスを許さない
貿易の世界では「書類(ドキュメント)」が命です。
インボイス(送り状)、パッキングリスト(梱包明細)、B/L(船荷証券)、原産地証明書……。
これらの書類における記載ミスは、単なる誤字脱字では済みません。「貨物の停止」と「巨額の損失」を意味します。
- L/C(信用状)決済
スペルが一文字違うだけで、銀行がお金を払ってくれません(ディスクレ)。 - 通関
数量の桁やHSコード(品目分類)が違うだけで、税関で「密輸」や「虚偽申告」を疑われ、貨物が没収されるリスクすらあります。
向いている人は、このプレッシャーを心地よい緊張感に変えられる「書類の狙撃手(スナイパー)」です。
「ん? この重量の計算、0.1kg合わないぞ。おかしい」
「このB/LのConsignee(荷受人)の住所、カンマが抜けている気がする」
神は細部に宿る。
膨大な英数字の羅列から、たった一つの違和感を見つけ出す「異常なまでの正確性」と「几帳面さ」こそが、会社の利益を守る最強の防波堤になります。
特徴2:【時空の旅行者】「時差」と「カレンダー」を支配する
貿易相手の多くは、日本とは違う時間軸で生きています。
アメリカは日本の夜に起き出し、ヨーロッパは日本の夕方に動き出します。そして、イスラム圏にはラマダンがあり、中国には春節(旧正月)があります。
向いている人は、常に頭の中に「世界時計」と「多国籍カレンダー」が入っています。
- 時差攻略
「今は日本の17時だから、ドイツは朝の9時か。今メールすれば、彼らの始業と同時に読んでもらえて、今日中に返事が来るな」 - 祝日回避
「来週から中国は大型連休で物流が全停止する。その前に出荷を済ませないと、1ヶ月在庫切れになるぞ」
自分の時計(日本の9時-17時)だけで動かず、相手の時計に合わせてボールを投げる。
この「時空を超える感覚」がある人は、「メールの返信が来ない!」とイライラすることなく、スムーズに仕事を回せます。
特徴3:【交渉の猛獣使い】乙仲・フォワーダーを味方につける
貿易事務は、一人では絶対に仕事ができません。
船や飛行機のスペースを確保してくれる「フォワーダー(Forwarder)」や、通関手続きをしてくれる「乙仲(おつなか)」という強力なパートナーが必要です。
特に繁忙期(クリスマス前や旧正月前)になると、船のスペースは奪い合いになります。
「満船です。もう乗せられません」と断られた時が、あなたの腕の見せ所です。
向いている人は、普段から彼らと「濃い人間関係」を築いています。
「〇〇さん! いつもありがとう! 今回どうしても急ぎなの。なんとか隙間にねじ込んでくれない? お願い! 今度お菓子持っていくから!」
ビジネスライクな関係を超えて「いざという時に無理を聞いてもらえる信頼関係」を作れる人。
英語力以上に「国内の物流業者との泥臭いコミュ力」が、物流のスピードを決定づけます。
特徴4:【トラブルサーファー】「船が遅れる」は日常茶飯事
貿易にトラブルは付き物です。
台風、港のストライキ、スエズ運河の座礁、戦争、コンテナ不足……。
自分ではどうしようもない「不可抗力」で、荷物は遅れ、届きません。
向いている人は、トラブルが起きた時にパニックになりません。
「あー、台風来ちゃったか。じゃあ船は遅れるな。今のうちに航空便のレートを確認して、お客さんに『遅れますが、追加料金で空輸もできます』と提案しておこう」
トラブルを「波」のように捉え、それに飲まれるのではなく、うまく乗りこなす(サーフィンする)。
「予定通りにいかないのが当たり前」という「大らかな精神」と「即座のリカバリー能力(Bプラン作成力)」を持つ人は、どんな荒波でも生き残れます。いちいち動揺していたら、身が持ちません。
特徴5:【サバイバル・イングリッシュ】「正しい英語」より「伝わる英語」
「貿易事務にはTOEIC 900点や、ネイティブ並みの英会話が必要ですか?」とよく聞かれますが、実はそこまで必要ありません。
現場で必要なのは、教科書通りの綺麗な英語ではなく「意思を伝えるための道具としての英語」です。
向いている人は、文法ミスを恐れず、シンプルで強い英語を使います。
- 教科書的な英語、、”Could you please tell me when the vessel will likely arrive at the port?”
- 現場のあなた
“Vessel arrival date? URGENT!! Need answer by today!”
相手(特にアジア圏などの非ネイティブ)にとっても、長ったらしい丁寧なメールより、短くて要点がわかるメールの方がありがたいのです。
英語を崇拝せず「ただの連絡ツール」として使い倒せる「度胸」こそが重要です。
AI時代、貿易事務は「作成係」から「SCMマネージャー」へ
「インボイス作成や通関書類の入力は、AIやRPAで自動化される」と言われます。
確かに、書類を作るだけの単純作業はAIの方が正確で速いでしょう。
しかし、今回紹介した「ストライキなどの突発的なトラブル対応」「乙仲さんへの熱烈な交渉」「時差を読んだ絶妙なタイミングでのメール」は、AIにはできません。
AIは、嵐で船が揺れている時に「コストはかかるけど、欠品を防ぐために航空便に切り替えよう!」という「経営的な決断」はできません。
AIは、海外担当者の誕生日に「Happy Birthday!」とメッセージを送り、距離を縮めることはできません。
面倒な入力作業から解放されたあなたは、より広い視点で「どこの国から、どういうルートで運べば、コストと納期が最適か?」を考える「SCM(サプライチェーン・マネジメント)のスペシャリスト」として、グローバルビジネスの中枢を担うことになります。
あなたは世界を繋ぐ「血管」です。
もしあなたが、
「毎日トラブルばかりで疲れる」
「時差に振り回されて眠い」
「ただの事務だと思われて評価されない」
と悩んでいるなら、思い出してください。
あなたが手配したそのコンテナには、日本の消費者が待ち望んでいる商品や、海外の工場が必要としている部品が詰まっています。
あなたが動かさなければ、スーパーの棚は空になり、工場のラインは止まります。
あなたは、世界経済という巨大な身体に血液を送り続ける「血管」です。
地図上の点と点を、あなたの情熱とスキルで結んでいる。
その壮大なスケールの仕事を、どうぞ誇りに思ってください。
あなたの「隠れた才能」と「お疲れ度」、こっそり測ってみませんか?
「記事を読んで『これ私のことかも?』と思ったけど、実際どうなんだろう?」
「毎日船の遅れと時差に振り回されて、自分の体内時計が狂っているかも……」
そんなふうに思った方のために、うしろぽっけでは2つの無料診断を用意しました。
どちらも登録不要、休憩時間の1分でできるので、仕事の息抜きにポチポチっと遊んでみてください。
① 12問でわかる「バックオフィス適職診断」
一口に事務職と言っても、「国内でじっくり働くのが得意なタイプ」もいれば、今回の記事のように「世界を相手にダイナミックに働く貿易事務タイプ」もいます。
心理学(RIASEC理論)に基づいて、あなたの性格が一番輝くポジションを分析します。
② 笑うのに疲れたら。「職場ピエロ度診断」
貿易事務は、海外トラブルと国内の板挟みになりながらも、クールに対応しなければなりません。
「本当は『船なんか知るか!』と叫びたいのに…」と、ストレスを溜め込んでいませんか?
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