「会社の金でショッピング」? いいえ、あなたは「利益創出の錬金術師」であり「サプライチェーンの守護神」です。
「購買部に行きたいです。ショッピングが好きだし、良いものを見つける目利きに自信があります! 会社の金で買い物できるなんて最高ですよね!」
もし配属面談や転職の場で、そう目を輝かせて語る人がいたら、私は現実の厳しさを優しく、しかし明確に突きつけます。
「では、長年の付き合いがある取引先が『原材料費が上がったので、来月から値上げさせてください』と頭を下げてきた時、情を捨てて『NO』と言えますか? あるいは、現場の技術者が『どうしてもこの高級なハイスペック部品を使いたい』と言ってきた時、『機能が同じならこっちの安い方で十分だ』と突き返す覚悟はありますか?」
購買・調達(Procurement)の仕事。
それは、カタログを見て好きなものを買う優雅な仕事ではありません。
「コスト(Cost)」、「品質(Quality)」「納期(Delivery)」という、あちらを立てればこちらが立たない「QCDSのトライアングル」の中で、最適解を導き出す、胃の痛くなるようなパズルです。
営業が汗水を垂らして1億円売り上げても、利益率が10%なら、手元に残る利益は1000万円です。
しかし、購買が知恵を絞ってコストを1000万円下げれば、それはそのまま「1000万円の純利益」になります。
つまり、あなたの「値引き交渉」は、営業の「売上」よりもダイレクトに、そして確実に会社の財布を潤すのです。
今回は、そんな地味ですが、実は経営への貢献度が計り知れない購買・調達に向いている人の「リアルな適性」を5つ紹介します。
必要なのは、センスではありません。
相手の懐事情を見抜く「相場観」と、板挟みに耐えうる「タフな交渉力」です。
特徴1:【コストの鬼】「1円の重み」が、営業の10倍に見える
購買の基本にして奥義。それは「コストダウン(原価低減)」への執着です。
「たかが1円の値上げでしょ? 相手も大変なんだし、払ってあげようよ」と言う人は、購買には向きません(慈善事業になってしまいます)。
向いている人は、その「たかが1円」の背後に「膨大な数量(ボリューム)」を見ています。
「部品単価が1円上がると、月産10万個だから月10万円、年間で120万円の利益が吹っ飛ぶ。利益率10%で換算すると、営業が1200万円売り上げる労力に匹敵する損失だ」
この計算が瞬時にできる人。
だからこそ、たった1円、たった0.1%の手数料に命を懸けてこだわり、
「あと50銭、なんとかなりませんか? 輸送ルートを見直せばいけませんか?」
と、粘り強く交渉できるのです。
この「ケチ」とも言える厳格な金銭感覚こそが、企業の利益を守る最強の盾となります。
特徴2:【交渉のポーカーフェイス】「情」と「理」を使い分ける
購買担当者は、毎日が交渉(ネゴシエーション)の連続です。
サプライヤー(取引先)も生活がかかっていますから、必死で売り込んできますし、あらゆる理由をつけて値上げを要求してきます。
向いている人は、ここで「ドライな合理性」と「ウェットな人間関係」を、役者のように使い分けます。
- ドライ(理・Bad Cop)
「原材料費高騰のデータは見ました。でも、御社の製造プロセスのここにはムダがありますよね? ここを改善すれば、値上げなしで吸収できるはずです(論理武装)」 - ウェット(情・Good Cop)
「……とはいえ、いつも無理聞いてくれてありがとう。今回の案件は他社の方が安かったけど、〇〇さんへの恩があるから、上司を説得して御社に決めたよ(貸しを作る)」
ただ叩くだけ(価格重視)では、いざという時に助けてもらえません。
相手を追い詰めすぎず、かといって甘やかさず「Win-Win(に見える落とし所)」を探るバランス感覚。
あなたは、ビジネスというテーブルで戦う「プロのポーカープレイヤー」です。
特徴3:【板挟みの調整王】社内の「ワガママ」を飼いならす
購買の敵は、実は社外(サプライヤー)だけでなく「社内」にもいます。
特に、技術者(エンジニア)や営業担当者です。彼らは「スペック(性能)」や「納期」を最優先し、コストを無視した要求をしてきます。
- 技術者
「最高の品質にしたいから、あの有名メーカーの特注品を買ってくれ! 妥協はしたくない!」 - あなた(心の声)
(それ、オーバースペックだし納期3ヶ月かかるぞ…) - あなた(発言)
「いや、その機能なら汎用品のこれで十分です。コストが1/10になりますし、明日届きますよ」 - 現場
「明日までに必要だ! すぐ発注しろ! 特急料金がかかってもいい!」 - あなた
「そんな無計画な発注は認められません。計画的に発注してください」
社内のこだわり(ワガママ)をそのまま通せば、会社の利益は消滅します。
向いている人は、専門知識を身につけ、技術者と対等に渡り合い、
「TCO(総保有コスト)で考えましょう」
と説得できる「社内コンサルタント」の能力を持っています。
特徴4:【法律の番人】「下請法」を武器に、弱きを守る
「買い叩き」は正義ではありません。やりすぎれば犯罪(下請法違反)になります。
強い立場の発注側(バイヤー)が、弱い立場の受注側(サプライヤー)を不当に圧迫することは、法律で厳しく禁じられています。
向いている人は、コストダウンを追求しつつも、「コンプライアンス(法令遵守)」のラインを絶対に見誤りません。
「これ以上の値引き要求は『買いたたき』と見なされる恐れがある。ここは引こう」
「口約束での発注はトラブルの元だ。必ず『3条書面(発注書)』を出そう」
自分たちが「強者」であることを自覚し、その力(発注権限)を乱用しない「倫理観」。
サプライヤーを奴隷ではなく「パートナー」として尊重できる人だけが、持続可能なサプライチェーンを構築できます。
特徴5:【リスクの予言者】「もしも工場が止まったら?」
地震、台風、パンデミック、半導体不足、地政学リスク……。
現代のサプライチェーンは、常に寸断のリスクに晒されています。
ある日突然、たった一つの小さな部品が入ってこなくなり、自社の巨大な工場が停止する(ラインストップ)。これは購買にとって悪夢であり、死活問題です。
向いている人は、平時から「BCP(事業継続計画)」を考えています。
「A社がダメになった時のために、B社とも口座を開いておこう(マルチソース化)」
「海外からの輸送が止まるリスクがあるから、国内在庫を少し積み増しておこう」
晴れているうちに傘を用意する。
この「心配性なまでのリスク管理能力」が、有事の際に会社を救います。
AI時代、購買は「発注係」から「調達戦略家」へ
「定型的な発注業務や、単純な価格比較はAIで自動化される」と言われます。
Amazonでポチるような単純購買(間接材購買)は、確かにAIの方が効率的でしょう。
しかし、今回紹介した「サプライヤーとの信頼関係構築」「社内の技術者との複雑な折衝」「有事のリスク対応」は、AIにはできません。
AIは、「このサプライヤーは今は技術力が低いけど、社長の熱意がすごいから、将来化けるかもしれない。育ててみよう」という「投資的な判断」はできません。
AIは、納期のトラブルが起きた時、電話一本で「〇〇さんの頼みなら、なんとかライン空けます!」と無理を聞いてもらうことはできません。
面倒な事務作業から解放されたあなたは、より戦略的に、どこと組み、どうコスト構造を変革するかを考える「調達戦略家(Strategic Sourcing Manager)」として、経営の中枢を担うことになります。
まとめ:あなたは会社の「利益」を創っている
もしあなたが、
「値切ってばかりで心が痛む」
「社内からも社外からも文句を言われて辛い」
と悩んでいるなら、思い出してください。
あなたが守ったその1円が積み重なって、会社の利益になり、社員の給料になり、新しい投資の原資になっています。
営業が攻めのエースなら、あなたは「守りのエース」です。
どんなに点(売上)を取っても、ザル(コスト管理不足)なら試合には勝てません。
あなたは、会社の財布の紐を握る「最後の門番」
その誇りを胸に、今日もタフな交渉のテーブルに着いてください。
あなたの「隠れた才能」と「お疲れ度」、こっそり測ってみませんか?
「記事を読んで『これ私のことかも?』と思ったけど、実際どうなんだろう?」
「毎日値上げ交渉と板挟みで、胃がキリキリしているかも……」
そんなふうに思った方のために、うしろぽっけでは2つの無料診断を用意しました。
どちらも登録不要、休憩時間の1分でできるので、仕事の息抜きにポチポチっと遊んでみてください。
① 12問でわかる「バックオフィス適職診断」
一口に事務職と言っても、「売上をサポートする営業事務タイプ」もいれば、今回の記事のように「利益を絞り出す購買・調達タイプ」もいます。
心理学(RIASEC理論)に基づいて、あなたの性格が一番輝くポジションを分析します。
② 笑うのに疲れたら。「職場ピエロ度診断」
購買は、取引先には「厳しく」、社内には「口うるさく」振る舞わなければなりません。
「本当はもっといい顔をしたいのに…」と、役割と本音の間で疲れていませんか?
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