「地味なチェック係」? いいえ、あなたは「歓迎されざる捜査官」であり「組織の最後の砦」です。
「内部監査室に異動したいです。コツコツと数字をチェックするのが好きだし、几帳面な性格だから向いていると思います」
もし採用面接や社内公募でそう語る人がいたら、私は覚悟を決めるように伝えます。
その「チェック」の対象は、無機質な紙やデータではなく、ドロドロとした「人間の弱さ」と「果てしない欲望」だからです。
内部監査(Internal Audit)の仕事。
それは、他の部署から社内で最も「来てほしくない」と思われる仕事です。
あなたが「往査(おうさ:実地監査)」のために部署に入っていくと、室内の空気が一瞬で凍りつきます。
「チッ、また監査かよ」「仕事の邪魔をしに来たのか」「粗探しご苦労さん」
そんな冷ややかな視線を背中に浴びながら、あなたは営業部長に笑顔でこう言わなければなりません。
「お疲れ様です。それでは、過去3年分の接待交際費の領収書と、稟議書(りんぎしょ)との突合結果をすべて見せていただけますか?」
昨日まで一緒にランチを食べていた同僚の不正を見つけ、報告しなければならない時もあります。
現場から「現場の苦労も知らないくせに、正論ばかり言うな!」と怒鳴られることもあります。
それでも、あなたが止めなければ、その小さな不正(ひび割れ)は広がり、いつか会社という巨大な建物を崩壊させてしまいます。
今回は、そんな孤独で、しかし組織を根底から支える「最後の砦」である内部監査に向いている人の「リアルな適性」を5つ紹介します。
必要なのは、簿記の知識だけではありません。
誰にも忖度しない「冷徹な正義感」と、嘘の匂いを瞬時に嗅ぎ分ける「野生の嗅覚」です。
特徴1:【職業的懐疑心】「誰も信じない」という優しさを持てる
監査の世界には、「職業的懐疑心(Professional Skepticism)」という言葉があります。
これは、簡単に言えば「性悪説」です。
普通、人は「相手を信じたい」と思います。しかし、内部監査に向いている人は、プロとして心を鬼にし、「人は環境次第で必ず魔が差す生き物だ」という前提に立ちます。
- 素人
「この課長は勤続20年の真面目な人だから、横領なんてするはずがない。チェックは簡略化しよう」 - プロ(あなた)
「真面目な課長だからこそ、誰にも相談できずに借金を抱え、使い込みをしているかもしれない。彼を守るためにこそ、徹底的に見よう」
「システムが出したデータだから正しいはずだ」という思い込みも捨てます。
「システムの設定自体が改ざんされているかもしれない」と、全ての可能性を疑ってかかる。
これは性格が悪いのではありません。
「信じてチェックを怠り、後で同僚を犯罪者にしてしまうこと」こそが最大の残酷だと知っているからです。
「疑うことは、会社と社員の人生を守ること」。このパラドックスを腹落ちさせられる人が、優秀な監査人です。
特徴2:【人間嘘発見器】「完璧すぎる資料」に強烈な違和感を抱ける
監査の現場では、対象部署へのヒアリング(監査インタビュー)が行われます。
向いている人は、相手の言葉の内容(バーバル)よりも、「非言語(ノンバーバル)のシグナル」に異常に敏感です。
- 視線の動き
「なぜ、在庫の管理方法について聞いた時だけ、目が右上に泳いだのか?」 - 資料の整合性
「なぜ、この議事録は完璧に整理されすぎているのか?(=監査直前に、見られたくないものを隠すために急いで捏造したのではないか?)」 - 話し方
「なぜ、やたらと饒舌(じょうぜつ)に話すのか?(=沈黙を恐れ、余計なことを話して煙に巻こうとしているのではないか?)」
「完璧なものほど怪しい」「饒舌なほど隠したいことがある」。
この直感を信じ、相手が隠そうとしている「不都合な真実」の尻尾を掴む。
まるで刑事ドラマの取り調べ室のような心理戦を、冷静に行える「観察眼」が必要です。
特徴3:【サイコパス的・鈍感力】「嫌われる勇気」を武器にする
内部監査人は、社内の「和」を乱す存在です。
決算前の繁忙期で殺気立っている営業部に乗り込み、「規程通りに運用されていません」と指摘し、改善報告書を書かせなければなりません。
「今そんな細かいこと言ってる場合か! コンプライアンスで飯が食えるか! 売上を作るのが先だろ!」
と、パワーハラスメント寸前の剣幕で怒鳴られることもあります。
ここで「すみません……」と萎縮してしまう人は、監査人には向きません(メンタルを病んでしまいます)。
向いているのは、
「おっしゃる通りです。ですが、この契約手続きは下請法違反のリスクがあります。売上を作っても、公取委から勧告を受けて指名停止になったら、飯は食えなくなりますよね?」
と、顔色一つ変えずに平然と言い返せる胆力。
その場の空気を読んでなあなあにするのではなく、「嫌われてもいい。会社を救えるなら、私が悪者になろう」と割り切れる「精神的タフネス(良い意味でのサイコパス性)」
孤独を恐れない強さが、監査人の最大の資質です。
特徴4:【組織の修理人】「摘発」ではなく「改善」を目指す
三流の監査人(ただの警察)は、ミスを指摘して「バツ(指摘事項)」を与えて満足します。これでは現場に恨まれるだけで、何も解決しません。
一流の監査人(向いている人)は「なぜそのミスが起きたのか?」という根本原因を特定し、仕組みを修理します。
- 警察の視点
「横領しましたね。懲戒処分です」 - 修理人(あなた)の視点
「彼が横領できたのは、彼個人の資質の問題ではなく『上長の承認なしで送金できるシステム』や『長期間同じ担当者を配置し続けた人事ローテーション』という構造上の欠陥があるからではないか?」
罪を憎んで人を憎まず。
個人の責任にするのではなく「仕組み(プロセス・内部統制)」を改善し、二度と同じ過ちが起きないように修繕を行う。
「警察」から「コンサルタント」への視点の転換ができる人は、最終的に現場からも「守ってくれてありがとう」と感謝されます。
特徴5:【知の探求者】会社の「バリューチェーン」全てを知りたがる
内部監査は、経理だけでなく、営業、製造、調達、人事、システム、法務、海外子会社……会社の全ての部署に首を突っ込みます。
つまり、「全部署の業務」を理解していなければ、監査なんてできません。
向いている人は、異常なほどの「知的好奇心」を持っています。
「工場のこの機械はどういう原理で動いているの?」
「このマーケティングツールのアルゴリズムは?」
「ベトナム子会社の商習慣における『袖の下』のリスクは?」
知らないことを「勉強しなきゃ」という義務感ではなく、「知りたい! 暴きたい!」という「オタク気質」で楽しめる人。
会社という巨大な生き物の、隅から隅までを把握したいという欲求が、結果として精度の高い監査に繋がります。
AI時代、監査は「チェック係」から「ガバナンスの守護神」へ
「伝票の突き合わせや、データの異常値検出はAIで自動化される」と言われます。
確かに、全件チェック(母集団監査)や、不正な金の流れの検知(不正検知)は、AIの方が圧倒的に得意です。人間がパラパラめくる時代は終わります。
しかし「なぜその不正が行われたのか(動機・プレッシャー)」を見抜き、「どうすれば再発を防げるか(改善策)」を現場と対話して作り上げる仕事は、AIには絶対にできません。
AIが「このデータがおかしいです」とアラートを出した時、その背後にいる「悩める人間」に向き合い、
「ノルマが厳しくて苦しかったんですね。でも、これはダメです。一緒に評価制度から見直しましょう」
と諭し、経営陣に提言できるのは、人間だけです。
これからの監査人は、単なる「社内警察」を超えて、経営リスクを未然に防ぎ、組織を健全化する「経営コンサルタント」や「ガバナンスの守護神」としての地位を確立します。
まとめ:あなたは会社の「盾」だ
もしあなたが、
「誰からも歓迎されない仕事だ」
「人の粗探しばかりで気が滅入る」
「人間不信になりそうだ」
と悩んでいるなら、思い出してください。
どんなに立派な城でも、土台がシロアリに食われていたら、地震が来た瞬間に倒壊します。
あなたは、誰も見ない床下に潜り込み、黙々とシロアリを駆除し、土台を補強しているのです。
あなたは、会社という組織の「盾」です。
あなたが機能しているからこそ、会社は堅牢さを保ち、社会的に信頼され、社員が安心して働けるのです。
その孤独な戦いは誰にも見えません。
でも、あなたがいること自体が、会社の「防御力」そのものなのです。
あなたの「隠れた才能」と「お疲れ度」、こっそり測ってみませんか?
「記事を読んで『これ私のことかも?』と思ったけど、実際どうなんだろう?」
「毎日人を疑いすぎて、プライベートでも友達の嘘がわかってしまう……」
そんなふうに思った方のために、うしろぽっけでは2つの無料診断を用意しました。
どちらも登録不要、休憩時間の1分でできるので、仕事の息抜きにポチポチっと遊んでみてください。
① 12問でわかる「バックオフィス適職診断」
一口に事務職と言っても、「みんなと仲良くするのが得意な総務タイプ」もいれば、今回の記事のように「孤独に正義を貫く内部監査タイプ」もいます。
心理学(RIASEC理論)に基づいて、あなたの性格が一番輝くポジションを分析します。
② 笑うのに疲れたら。「職場ピエロ度診断」
内部監査は、心を鬼にして「不正」や「ミス」を指摘し続けなければなりません。
「本当は嫌われたくないのに…」と、正義感と孤独の間で揺れていませんか?
そんなあなたの「心の摩耗度」を可視化してみませんか?