「六法全書の暗記」? いいえ、あなたは「言葉の外科医」であり「悲観的な脚本家」です。
「法務部に行きたいです! 大学で法律を勉強していて、知識には自信があります!」
もし未経験でそう目を輝かせている人がいたら、私は少しだけ心配になります。
なぜなら、企業の現場で求められる法務(リーガル)の能力と、試験勉強で使う能力は、似て非なるものだからです。
法務の仕事。
それは、静かなオフィスで六法全書を優雅に眺める時間よりも「契約書」という名の「歪んだ言葉のパズル」と泥臭く格闘している時間の方が圧倒的に長い仕事です。
月末、ノルマに追われた営業担当が「今すぐ契約して売上を作りたい!」とアクセル全開で持ってきた契約書に対し、あなたは一人だけ冷や水を浴びせなければなりません。
「待ってください。この第5条の『直ちに』を『遅滞なく』に変えないと、物流トラブルが起きた時に、会社が損害賠償で潰れます」
周囲からは「細かいことをグチグチと……」「ビジネスのスピードを落とすな」と疎まれることもあります。
しかし、断言します。
あなたがその1文字を修正しなければ、会社は数年後に数億円の損失を出し、路頭に迷っていたかもしれません。
今回は、そんな孤独で、しかし企業の存続を左右する法務担当に向いているの「リアルな適性」を5つ紹介します。
必要なのは、難解な条文を丸暗記する記憶力ではありません。
「最悪の事態」を鮮明にイメージできる想像力と、言葉一つで現実を変える「執念」です。
特徴1:【言葉の外科医】「てにをは」ひとつで、リスクを切除する
法務のメイン業務である「契約書審査(リーガルチェック)」
これは、単なる読書や誤字脱字チェックではありません。企業の命運を握る「言葉の手術」です。
法務に向いている人は、日本語の微細な違いに対して、異常なまでのこだわり(フェティシズム)を持っています。
- 「A および B」なのか「A または B」なのか
- たったこれだけの違いで、契約解除の条件が「両方満たす必要がある(厳しい)」のか「片方でいい(易しい)」のかが変わり、裁判の勝敗が決まります。
- 「協力するものとする」なのか「協力するよう努める」なのか
- 前者は法的義務(Obligation)ですが、後者はただの努力目標(Effort)です。相手に責任を負わせたいなら、絶対に前者でなければなりません。
- 「直ちに(Immediately)」なのか「速やかに(Promptly)」なのか
- 時間的な許容範囲が全く違います。自社が守る側なら「速やかに」に逃げたいし、相手に守らせるなら「直ちに」で縛りたい。
普通の人なら「どっちでも意味は通じるじゃん」と読み飛ばすような表現に、向いている人は強烈な違和感とリスクを感じます。
「ここで曖昧な言葉を使うと、将来揉めた時に逃げ道がない。メスを入れて、正確な表現に書き換えよう」
このように、助詞ひとつ、接続詞ひとつにこだわり、将来発生するかもしれないリスクを外科手術のように切除していく。
この「言語的潔癖症」とも言える緻密さこそが、法務としての最強の武器です。
特徴2:【プロの心配性】「もしも」のストーリーを100通り妄想できる
営業マンが「最高の未来(この商品がバカ売れする!)」を夢見るロマンチストだとしたら、法務は「最悪の未来(大トラブル)」を想定するリアリストでなければなりません。
新規事業の相談が来た時、向いている人の脳内では、ネガティブなシミュレーションが高速回転します。
- 「もし、この商品がお客さんの家で爆発して火事になったら? PL保険(生産物賠償責任保険)の上限は足りるか?」
- 「もし、取引先が来月倒産して、売掛金が回収できなかったら? 担保は取っているか?」
- 「もし、担当者が個人情報の入ったUSBを電車で紛失したら? 報告フローはどうなっている?」
「そんなこと、滅多に起きるわけないじゃん」と笑われても、「いや、起きる可能性があります。その時のために『免責条項』を入れておきましょう」と真顔で言える。
この「ネガティブな妄想力(想像力)」こそが、契約書の穴を塞ぎ、会社を守る盾となります。
「悲観的に準備し、楽観的に対応する」。これが法務の極意です。あなたの「心配性」は、ここでは才能なのです。
特徴3:【翻訳家】「宇宙語(法律用語)」を「日本語」にする
法務担当の元には、経営陣や現場から様々な法律相談が来ます。
しかし、弁護士が書いた意見書や、法律の条文は、一般人には理解不能な「宇宙語」で書かれています。
「善意の第三者に対抗できない」「契約不適合責任に基づく追完請求権が……」
これをそのまま伝えても、現場はポカンとするだけです。
向いている人は、これを「小学生でもわかるビジネス用語」に翻訳します。
- 宇宙語
「本件は、民法上の形成権を行使し、解除の意思表示を行うことで……」 - あなたの翻訳
「要するに、相手の許可がなくても、こっちから一方的に『契約やめます』って言えばOKってことです」 - 宇宙語
「管轄裁判所は、専属的合意管轄とし……」 - あなたの翻訳
「もし裁判になったら、相手の会社がある大阪じゃなくて、ウチに近い東京の裁判所でやるよって約束させましょう。その方が交通費も弁護士費用も浮くので」
法律という難しいロジックを噛み砕き、「で、結局どうすれば儲かるの? 損しないの?」というビジネスのアクションに落とし込む。
あなたは、法とビジネスを繋ぐ「通訳者」なのです。
特徴4:【防波堤】営業の「圧力」に屈せず、笑顔でNOと言える
法務は、社内で最も「嫌われ役」になりやすいポジションです。
月末、ノルマに追われた営業部長が、ハンコが欲しい契約書を持って怒鳴り込んできます。
「細かいことはいいから、早く承認しろ! 今月中に契約しないと売上が未達になるんだぞ! 責任取れるのか!」
ここで気圧されて「すみません…」とハンコを押してしまう人は、法務失格です(そのハンコが、将来会社の命取りになります)。
向いているのは、圧力に対して「ダメなものはダメです(ニッコリ)」と、笑顔で、しかし絶対に譲らない「胆力」を持った人です。
もちろん、ただ拒否するだけではありません。
「今のままだと承認できませんが、第3条のこの文言を削除してくれれば、すぐに承認できます」
「契約書は変えられませんが、覚書(覚え書き)を別途巻けばリスク回避できます」
ビジネスを止めずに、リスクだけを回避する「代替案」を出せる人。
「営業のアクセル」と「法務のブレーキ」を巧みに操るドライバーのようなバランス感覚が求められます。
特徴5:【論理の格闘家】「なんとなく」を許さない論理的思考力
法務の世界に「空気」や「行間」は存在しません。あるのは「論理(ロジック)」と「証拠(エビデンス)」だけです。
取引先と契約条件で揉めた時、相手はこちらに不利な条件を飲ませようとしてきます。
「御社とは長い付き合いなんだから、これくらい飲んでよ(情)」
「業界の慣習だから、どこもこうしてるよ(同調圧力)」
向いている人は、こうした感情論には一切なびきません。
「長い付き合いであることと、今回の賠償責任の上限撤廃は論理的に無関係です」
「業界の慣習とおっしゃいますが、公正取引委員会のガイドラインでは、この条件は優越的地位の濫用に当たる可能性があります」
情に流されず事実と根拠だけで相手を論破し、こちらの利益を守り抜く。
この「ドライで冷徹な論理的思考力」は、タフな交渉の場において最強の防御力となります。
AI時代、法務は「チェック係」から「戦略パートナー」へ
「契約書のチェックはAI(リーガルテック)で自動化されるから、法務は不要になる」
そんなニュースを見かけますが、それは現場を知らない人の意見です。
確かに、「この条文が抜けています」「誤字があります」と指摘するだけの定型的なチェックはAIが担うでしょう。
しか「ビジネスの文脈を理解し、リスクの許容範囲を決める」ことはAIにはできません。
「法律的にはグレーだしリスクもある。でも、この事業が成功すれば会社は大きく成長する。……よし、契約書でここだけ防衛線を張って、あとはGOしよう(リスクテイク)」
この「経営判断(ビジネスジャッジ)」ができるのは人間だけです。
AIが下書きチェックをしてくれるおかげで、あなたは細かい誤字脱字探しから解放されます。
これからの法務は、事業を安全に、かつ最速で成長させるための「戦略法務」や、経営の中枢を担う「CLO(最高法務責任者)」候補として、よりクリエイティブなキャリアを歩むことになります。
あなたは会社の「盾」であり「参謀」だ
もしあなたが、
「細かいことを気にしすぎると言われる」
「ネガティブなことばかり考えると煙たがられる」
「理屈っぽいと言われる」
と、自分の性格にコンプレックスを持っているなら、自信を持ってください。
その「細かさ」と「ネガティブさ」と「理屈っぽさ」こそが、法務という職種では「稀有な才能」と呼ばれます。
全員が前(売上)を見て走っている時、一人だけ後ろ(リスク)を見て、落とし穴を埋め続ける。
あなたが張った「予防線(契約条項)」のおかげで、会社は致命傷を負わずに済んでいるのです。
誰にも気づかれないファインプレー。
その誇りを胸に、今日も1文字の修正に命を懸けてください。
あなたの「隠れた才能」と「お疲れ度」、こっそり測ってみませんか?
「記事を読んで『これ私のことかも?』と思ったけど、実際どうなんだろう?」
「毎日契約書の細かい文字を見すぎて、ゲシュタルト崩壊しそう……」
そんなふうに思った方のために、うしろぽっけでは2つの無料診断を用意しました。
どちらも登録不要、休憩時間の1分でできるので、仕事の息抜きにポチポチっと遊んでみてください。
① 12問でわかる「バックオフィス適職診断」
一口に事務職と言っても、「数字に強い経理タイプ」もいれば、今回の記事のように「言葉と論理に強い法務タイプ」もいます。
心理学(RIASEC理論)に基づいて、あなたの性格が一番輝くポジションを分析します。
② 笑うのに疲れたら。「職場ピエロ度診断」
法務は、会社を守るために、時には心を鬼にして「NO」と言わなければなりません。
「本当は物分かりのいい人でいたいのに…」と、嫌われ役のストレスを溜め込んでいませんか?
そんなあなたの「心の摩耗度」を可視化してみませんか?