「気づいたら、会社に謎のダンボールが届いていた」そんな未来が玄関先まで来ています。
「あ、コピー用紙の在庫がない」
そう気づいて、いつもの業者のサイトを開き、型番を検索し、カートに入れ、上司に承認チャットを飛ばす。……事務職の皆さんにとって、この「モノを買う」という業務は、呼吸をするように当たり前で、でも地味に時間を削られるルーチンワークですよね。
もし、これが「全自動」になったらどう思いますか?
棚の在庫が減ったらセンサーが感知し、「物を買うAI」が勝手に業者を選定して注文する。一方で、業者側では「物を売るAI」が24時間体制で注文を受け付け、瞬時に発送手配をする。人間は指一本動かさず、翌朝には必要なモノがデスクに届いている。
「そんな魔法みたいなこと、最高じゃないか!」と心が踊りますか? それとも、「勝手に買われるなんて怖い…」とザワザワしますか?
実はこれ、SF映画の話ではありません。「マシン・エコノミー(機械経済)」と呼ばれる、もうすぐそこまで来ている現実です。
本記事では、AIが勝手に商売を始めるこれからの時代に、私たち事務職が巻き込まれるであろう「新しいトラブル」と、それでもやっぱり期待したくなる「希望の未来」について、現場目線でじっくり語り尽くします。
第1章:【物を買うAI】便利だけど、空気は読まない。「激安トナー事件」の教訓
まずは「買う側」のAIの話です。
私の知人が働くある先進的なオフィスで、試験的に「備品自動発注システム」を導入したときの話です。これは、特定の消耗品が減るとAIがAmazonやアスクルを巡回し、最安値の商品を自動でポチるという画期的なものでした。
導入初月は順調でした。発注の手間がゼロになり、総務部は大喜び。「これで人間はクリエイティブな仕事に集中できる!」と。
しかし、事件は2ヶ月目に起きました。
ある朝、会社に届いたのは、見たこともないメーカーの再生トナーカートリッジの山。
AIが「最安値」という条件だけを忠実に守り、評価の低い、インク漏れリスクのある激安品を大量に仕入れてしまったのです。
しかも、そのトナーは純正品と微妙に規格が合わず、プリンターにセットすると異音がする始末。
結局、総務部のスタッフは、AIが買ったトナーを返品する手続きに追われ、プリンターの修理業者を手配し、上司から「誰がこんなものを買ったんだ!」と怒鳴られる羽目になりました。AIは怒られません。尻拭いをするのはいつだって人間です。
この時、私たちは痛感しました。
「物を買う」という行為には、スペックや価格以外の「文脈」があるんだ、と。
「来客用の資料だから、多少高くても純正インクできれいに印刷したい」とか、「あの業者は配送が雑だから避けたい」といった「現場の空気」は、まだAIには理解できていなかったのです。
第2章:【物を売るAI】24時間働く営業マン。でも、絶対に約束を守りすぎる危うさ
次は「売る側」のAIの話です。
最近では、Webサイトのチャットボットが人間に代わって接客し、商品を提案してくれるケースが増えました。
「物を売るAI」は優秀です。疲れないし、文句も言わないし、深夜2時の問い合わせにも即答します。
しかし、ここにも「事務職泣かせ」の落とし穴があります。
例えば、AIが顧客に対して「在庫あります!明日お届けできます!」と元気よく答えて受注したとします。システム上の数字は確かに「在庫あり」でした。
しかし、現場の倉庫では「実在庫はあるけど、箱が潰れていて出荷できない状態」だったとしたら?
人間なら「あ、これ箱潰れてるから、お客様に確認してから送ろう」と判断できます。でもAIは、データだけを見て契約を成立させてしまいます。
結果、後日お客様から「箱がボロボロじゃないか!」というクレーム電話を受けるのは、AIではなく生身の事務員です。
AIは「論理的な正解」を出しますが、商売における「仁義」や「現物の状態」まではケアしてくれません。ここでもまた、デジタルとリアルの隙間を埋めるための「泥臭い調整業務」が発生してしまうのです。
第3章:AI同士が勝手に商談?「秒速の入札」を人間が見守るシュールな未来
さて、ここからは少し先の未来、「物を売るAI」と「物を買うAI」が出会ったらどうなるか、というお話です。
想像してみてください。
あなたの会社の「購買AI」が、「プリンター用紙を100箱欲しい」とネットの海に叫びます。
すると、世界中の製紙会社の「販売AI」たちが集まってきて、人間には見えない速度でオークションを始めます。
販売AI A:「うちは1箱500円で!」
販売AI B:「なら、うちは480円で明日配送します!」
購買AI:「480円で明日配送、条件合致。B社から購入決定。決済完了。」
この間、わずか0.1秒。
相見積もりを取る手間も、価格交渉の電話も、請求書のPDF添付メールも不要。すべてがデジタルの光の速さで完結します。
希望的観測:
これは事務職にとって、まさに「夢」です。面倒な相見積もり地獄から解放され、コスト削減も勝手に進む。私たちは、届いた荷物を検品して「ありがとう」と言うだけで済む世界。
現実的観測:
でも、日本の商習慣という壁が立ちはだかります。
「ねえ、AIくん。B社から買ったのはいいけど、適格請求書(インボイス)はどこにあるの?」
「今月は予算オーバーだから、来月払いにしてもらうよう交渉した?」
AIが勝手に契約を結んでくるたびに、経理担当が「領収書データがない!」と叫び、法務担当が「その契約規約、ちゃんと読んだのか!」と青ざめる。
そんな「超高速の無秩序」が訪れる可能性も、否定できません。
第4章:私たちがやるべきは「マウス操作」ではなく「お財布の管理」
では、そんなカオスな未来に対して、私たちはどう備えればいいのでしょうか。
答えはシンプルです。プレイヤー(作業者)からマネージャー(監督)に昇格することです。
今まで私たちは、自分の手でマウスを動かし、注文ボタンを押していました。
これからは、AIという「優秀だけど世間知らずな新人」に、お財布とクレジットカードを持たせて、お使いに行かせる役回りになります。
そこで必要になるのは、以下の3つの「管理スキル」です。
1. 「家訓(買い物ルール)」を教え込む
AIに「安いものを買って」とだけ言うのは、子供に「なんでもいいから買ってきて」と言って一万円札を渡すのと同じです。
「1個の上限は〇〇円まで」「レビュー評価4.0以下は禁止」「海外発送はNG」といった詳細な購入条件(プロンプト)を設定する力が求められます。
2. 「お小遣い帳」をチェックする
AI任せにすると、便利すぎて買いすぎてしまうリスクがあります。
「今月、備品費が跳ね上がってない?」と定期的にダッシュボードを確認し、予算を超えそうならAIの権限を一時停止する。そんな「財務大臣」のようなチェック機能が、人間の重要な仕事になります。
3. 「検品」という最後のアナログ砦を守る
デジタルで契約が完結するからこそ、最後に届いた「モノ」を確認する人間の目が重要になります。
「注文通りか?」「壊れていないか?」「色がイメージと違わないか?」。
AIはデジタルの世界には強いですが、物理的な世界には触れられません。「最後の品質保証」は、依然として人間にしかできない聖域です。
第5章:それでも未来は明るい。面倒なことは全部AIに押し付けよう
ここまで怖い話もしましたが、私はこの「物を売るAI・物を買うAI」の未来を、とてもポジティブに捉えています。
だって、よく考えてみてください。
トイレットペーパーの最安値を調べて比較したり、封筒の在庫を数えて発注したりする作業。これ、本当にあなたの人生の貴重な時間を割いてやりたいことでしたか?
AIが普及すれば、こうした「誰がやっても同じ作業」は消滅します。
その代わりに残るのは、「社員のモチベーションを上げるために、美味しいコーヒー豆を選ぼう」とか、「取引先へのお祝いだから、心を込めたギフトを選ぼう」といった、「感情」や「配慮」が伴う買い物です。
「面倒な買い物」はAIへ。「楽しい買い物」は人間へ。
そんな住み分けができるようになれば、事務職の仕事はもっとクリエイティブで、もっと人間味のあるものになるはずです。
まとめ:AIは「最強のパシリ」になれる。手綱を握るのはあなたです。
「物を売るAI」「物を買うAI」なんて聞くと、自分の仕事が奪われるようで不安になるかもしれません。
でも、大丈夫。彼らはあくまで「道具」であり、「パシリ」です。
どれだけAIが進歩しても、「何が必要か」「いくらまで使っていいか」を決めるのは、意思を持った人間です。
マウスをクリックする手作業を手放し、代わりに「お財布の紐」と「AIの手綱」をしっかりと握る。
そうすれば、来るべきマシン・エコノミーの時代は、事務職にとって「面倒からの解放記念日」になるはずです。
AIくんに買い物リストを渡す準備はできましたか?
まずは、彼が変なものを買わないように、しっかりとした「お使いメモ」の書き方から練習していきましょう。
「発注業務」の自動化、まずは小さな一歩から始めませんか?
「AIに勝手に買い物をさせるのは、まだちょっと怖い…」
そう思うのは当然です。まずは、完全自動化ではなく、「在庫が減ったら通知してくれる」「毎月の購入リストを自動で作ってくれる」といった、半自動化から始めてみませんか?
うしろぽっけでは、高度なAIシステムを導入しなくても、今あるExcelや簡単なツールを使ってできる「備品管理のプチ自動化」のご相談に乗っています。
「気づいたら在庫切れ!」というあの冷や汗をなくすために、一緒に現場の仕組みを見直してみませんか?