​「世界の終わりに会社のことを思い出しますか?」――帰属意識という名の呪縛を解き、私たちが本当に所属すべき「場所」と「理由」を再定義する

目次

もしあと3時間で、巨大隕石が落ちてくるとしたら

​極端な思考実験から始めさせてください。

もし、あと3時間で地球に巨大隕石が衝突し、世界が終わるとします。

あなたは震える手でスマートフォンを取り出し、大切な人たちに最期の電話をかけます。

​リストに並ぶのは、実家の両親、パートナー、学生時代からの親友、あるいは離れて暮らす子供たちでしょうか。

​では聞きます。

そのリストの中に「部長」や「社長」の顔は浮かびましたか?

会社の同僚に「今までお世話になりました、御社の一員で幸せでした」と電話をかける人は、果たしてどれくらいいるでしょうか。

​おそらく、99%の人が「NO」だと思います。

​私たちが人生の大半の時間(起きている時間の半分以上!)を費やし、身を粉にして働いている「会社」という場所。

日頃は「我が社の一員としての誇りを持て」「エンゲージメントを高めろ」と説かれますが、命の瀬戸際においては、脳裏の片隅にも浮かばない程度の希薄な関係性。それが残酷な現実です。

​しかし、平穏な日常に戻れば、私たちはまた「会社」というシステムに悩み、理不尽な評価に怯え、人間関係に摩耗します。

命の重さとは無縁なはずの組織に、なぜ私たちはこれほどまでに縛られているのでしょうか。

​本記事では、企業側が都合よく使う「帰属意識」という言葉の嘘くささと、現場が抱える「なぜここで働くのか?」という根源的な疑問に、忖度なしでメスを入れていきます。そして、その瓦礫の中から、私たちがこれからの時代に持つべき「依存せず、突き放さず、利用し合う」という、大人の所属の形を探し出します。

​「看板」の幻想――そのネームバリューは、あなたの命を守る盾になるか

​ビジネスの場において、私たちは個人の名前よりも先に「会社の看板」を差し出します。

「〇〇商事の田中です」「△△テックの佐藤です」

その名刺一枚で、本来会えないような重役とアポイントが取れ、数千万円の取引が成立します。

​しかし、ここに大きな勘違いの落とし穴があります。

​【現場のリアル】「俺の実力だ」と勘違いしたエース社員の末路

​かつて私がいた業界に、圧倒的な売上を誇るトップセールスマンのAさんがいました。彼は「会社の看板なんて関係ない。俺のトークで売っているんだ」と豪語し、フリーランスとして独立しました。

​しかし、結果は悲惨でした。

彼が売っていたのは、彼の人柄ではなく、「万が一トラブルがあった時、この規模の会社なら補償してくれるだろう」という、組織に対する「与信(よしん)」だったのです。

看板を外した途端、電話は繋がらなくなり、メールの返信も途絶えました。

​「看板代」としての帰属意識

​もしあなたが「自分で食っていける」と思うなら、一度冷静に自問してみてください。

今の仕事がスムーズに進むのは、あなたのスキルのおかげか、それとも「会社のロゴ」が持つ魔法の力か。

​もし後者であれば、会社に所属することは「高い手数料を払って信用をレンタルしている」状態と言えます。

逆に言えば「看板という名の装備」を身につけているからこそ、今のパフォーマンスが出せている。その事実を認めることは、決して恥ずかしいことではありません。

​問題なのは、「看板のおかげ」と気付かずに会社を批判することでも、「看板がないと生きていけない」と会社に隷属することでもありません。

「この看板を使えば、もっとデカイことができる」と、したたかに計算できているかどうかなのです。

​搾取の構造――なぜ、私の汗が「働かないおじさん」のゴルフ代になるのか

​現場で最も士気が下がり、帰属意識が消滅する瞬間。

それは、自分が出した利益と、自分の給与明細の乖離(かいり)に気づいた時です。

​「中抜き率70%」の正体

​あなたが汗水垂らして100万円の利益を出したとします。

しかし、来月の給料としてあなたの口座に振り込まれるのは、20万円、よくて30万円です。

残りの70万円はどこへ消えたのでしょうか。

​会社側の説明はこうです。

「オフィスの賃料、PCやソフトの代金、社会保険料の会社負担分、そしてバックオフィス部門の人件費だ」と。

​正論です。確かに、組織を維持するには莫大なコストがかかります。

しかし、現場の感情は納得しません。

  • 誰も使っていない豪華な応接室の維持費
  • 現場の邪魔しかしない、承認承認また承認の複雑なワークフロー
  • そして、会議室で腕を組んで寝ているだけの高給取りな役員たち

​「なぜ、自分が必死で稼いだ金で、あの働かないおじさんのゴルフ代(役員報酬)を払わなきゃいけないんだ?」

​この強烈な「中抜き感(搾取されている感覚)」こそが、現代の社員から帰属意識を奪う最大の要因です。

​「上納金」に見合う「用心棒」か

​ここで重要なのは、「中抜き」そのものが悪ではないということです。

もし、その70万円の上納金と引き換えに、会社が以下のことをしてくれているなら、それは「適正価格」です。

  1. トラブルが起きた時、上司が土下座してでも全力で守ってくれる。
  2. 個人では絶対に契約できないような、超高額なツールやデータを使い放題にしてくれる。
  3. 面倒な税務処理や法務トラブルを、すべて代行してくれる。

​もし、あなたの上司や会社がこれらを果たさず、ただピンハネしているだけなら、その組織は「ブラック企業」以前に、ビジネスパートナーとして「不当」です。その時こそ、帰属意識を捨てて、転職や独立を考える正当なタイミングでしょう。

​「家族」という甘い罠――心理的安全性か、同調圧力か

​日本の企業、特にスタートアップや中小企業でよく使われる「私たちは家族だ(We are Family)」という言葉。

アットホームな職場、社員旅行、週末のBBQ。

一見、温かい言葉に聞こえますが、ここには致命的な論理矛盾と、ある種の「毒」が含まれています。

​家族はリストラしない

​本当の家族であれば、子供がテストで0点を取っても、お父さんが病気で働けなくなっても、縁を切ったり家から追い出したりはしません。無条件の愛と受容、それが家族です。

​しかし、会社は違います。

業績が悪化すればリストラをし、能力が不足していれば降格させます。

「家族だ」と言いながら、金の切れ目が縁の切れ目である関係性。これは詐欺に近いレトリックです。

​「やりがい」という名の麻薬

​もっとタチが悪いのは、「家族」という言葉が「搾取の免罪符」として使われるケースです。

  • ​「家族なんだから、苦しい時は助け合おう(=サービス残業してくれ)」
  • ​「みんなで夢を追いかけよう(=低賃金で文句を言うな)」

​帰属意識や「やりがい」を過剰に強調する会社ほど、この「家族」という言葉を悪用し、労働力を安く買い叩こうとする傾向があります。これを「やりがい搾取」と呼びます。

​ビジネスは、あくまで「契約」に基づいた対等な関係であるべきです。

ウェットな感情論で縛り付けようとする会社に、健全な未来はありません。私たちが求めるべきは「家族」ではなく「背中を預けられるプロの戦友」であるはずです。

​それでも「組織」が必要な理由――私たちが所属すべき新しい形

​ここまで、会社というシステムを徹底的に批判的に解剖してきました。

では、全員がフリーランスになり、バラバラに生きるのが正解なのでしょうか?

​私はそうは思いません。

むしろ、個の力が強まった現代だからこそ、「健全な形の組織(チーム)」の価値は逆説的に高まっています。

​会社は「家」ではなく「最強の装備」である

​帰属意識を持つべき対象は、「会社という法人」そのものではありません。

「その環境が提供してくれる機能(ファンクション)」に対してです。

​優秀な人があえて組織に属し続ける理由は、ただ一つ。

「一人でやるより、ここを利用したほうが、遠くへ行けるから」です。

  • スケールメリット:
    個人では受けきれない大規模なプロジェクトを、チームで動かす醍醐味。
  • 知の集合体:
    自分が壁にぶつかった時、廊下を歩けば解決策を知っている「異能の天才」がいる環境。
  • 分業による集中:
    営業、経理、法務といった「自分の専門外」をプロに任せ、自分は得意分野(職能)に100%集中できる贅沢。

​会社を「主君」と仰ぐのではなく、「高性能な乗り物(ビークル)」あるいは「強力な武器(アーマー)」として捉え直すこと。

これが、現代における正しい帰属意識のあり方です。

​「相互利用」という健全なドライさ

​「会社を利用してやる」という態度は、決して不誠実ではありません。

むしろ、従業員が会社を使い倒して大きな成果を上げれば、結果として会社も潤います。

​会社は従業員に「最高の環境とリソース」を提供し、従業員は会社に「最高のアウトプット」で返す。

そこにあるのは、盲目的な忠誠心ではなく、プロフェッショナル同士の「健全なギブアンドテイク(相互利益)」です。

この緊張感のある関係性こそが、これからの時代の「帰属」の正体です。

​マネージャーたちへ――帰属意識は「求める」ものではない

​もし、これを読んでいるあなたが経営者やマネージャーなら、部下に「もっと帰属意識を持て」「当事者意識が足りない」と説教するのは今すぐやめてください。

それは「俺のことをもっと好きになれ」と強要するストーカーと同じくらい、不毛で気持ちの悪い行為です。

​愛着は、結果として「勝手に湧く」もの

​帰属意識とは、管理職が植え付けるものではありません。

部下が、その環境で働きやすさを感じ、成長を実感し、正当な対価を得たときに、結果として心の底から自然に湧き上がってくる感情のことです。

  • ​部下が集中できるよう、社内政治や面倒な雑務を取り除いていますか?
  • ​部下が失敗したとき、保身に走らず、泥を被って守っていますか?
  • ​部下の成果を、正当に評価して給与やポジションに反映していますか?

​「この人の下でなら、このチームでなら、自分はもっと強くなれる」

そう思わせることさえできれば、ピザパーティーを開かなくても、社訓を毎朝唱和させなくても、最強のチームは勝手に出来上がります。

​結び:世界の終わりには思い出さなくても、明日会社に行く足取りが軽くなるように

​冒頭の問いに戻ります。

世界の終わりに、会社のことを思い出す必要はありません。

会社はあくまで、あなたの人生を豊かにするための「道具」であり「手段」に過ぎないからです。

​しかし、道具であるならば、それは「使い心地の良いもの」であるべきです。

​もし今、あなたの会社が「重たくて錆びついた鎧」になり、あなたの歩みを止めているなら。

あるいは、あなたが会社という名の「実家」に甘え、自分の足で立つことを忘れているなら。

​今こそ、その関係性を見直す時です。

「私はこの会社に縛られているのではない。私がこの会社を選んで、使いこなしているのだ」

​そう胸を張って言える場所。

理不尽な「中抜き」に納得するのではなく、「手数料を払う価値がある」と認めることができる場所。

そんな環境を、自らの手で選び取り、あるいは作り出していくこと。

​それこそが、会社という呪縛から解き放たれ、私たちが真に「所属」すべき場所の正体なのです。

​【独自企画】あなたの「所属」の健全性を測る

​最後に、私たちが作成した独自のチェックリストをご用意しました。

今の会社との関係が「依存」なのか「相互利用」なのか、客観的に見つめるきっかけにしてください。

【1分チェック】
あなたの帰属意識は「健全」ですか?

  • 会社の看板がなくても 顧客から電話がかかってくる
  • 上司は自分がミスをした時に カバーしてくれる
  • 会社に取られる「手数料」以上の メリットを感じている
  • 「家族」という言葉よりも 「契約」を信じている
  • もし明日会社が潰れても 来月の収入を作る自信がある

チェックが2つ以下のあなたへ。
それは「所属」ではなく「依存」かもしれません。

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