「スマートな戦略家」? いいえ、あなたは「社長と現場の翻訳機」であり「高性能な緩衝材」です。
「経営企画に行きたいです。経営視点を身につけて、スマートに会社の舵取りをしたいからです!」
もし社内公募や転職面接で、目を輝かせてそう語る若手がいたら、私は真顔でこう問い返します。
「では、社長が『来年は売上2倍だ! 死ぬ気でやれ!』と叫び、営業部長が『ふざけるな! 現場はもう限界だ、これ以上やったら全員辞めるぞ!』と机を叩いて激怒している会議室で、たった一人、笑顔で仲裁に入れますか?」
経営企画の仕事。
それは、高層階のオフィスで優雅にチェスを指すような仕事ではありません。
「空を飛びたい社長(理想・ビジョン)」と「地を這う現場(現実・リソース)」の間で引き裂かれそうになりながら両者をギリギリで繋ぎ止める「鎹(かすがい)」のような仕事です。
社長は「抽象的なポエム」を語ります。「世界を変えるぞ! シナジーだ! 破壊的イノベーションだ!」と。
現場は「具体的な数字」を求めます。「で、俺のノルマはいくら増えるんだ? 人は増えるのか? 残業代は出るのか?」と。
この噛み合わない二つの言語を翻訳し、納得させ、会社という巨大な船を前に進める。
あなたが機能しなければ、船はエンジン(現場)と舵(経営)がバラバラになり、その場で回転し始め、いずれ沈没します。
今回は、そんな強烈なプレッシャーの中で、会社の「脳」と「手足」を繋ぐ経営企画に向いている人の「リアルな適性」を5つ紹介します。
必要なのは、MBAの知識や高度なExcelスキルだけではありません。
ドロドロした人間関係を調整する「高度な政治力」と、理不尽を飲み込んで消化する「胆力」です。
特徴1:【超・翻訳家】社長の「ポエム」を「KPI」に変換できる
経営企画の最大のミッションは、社長の頭の中にある「曖昧なイメージ」を、全社員が理解でき、かつ実行可能な「具体的な行動計画」に落とし込むことです。
創業者や社長というのは、往々にして感覚(センス)で物を言います。
「もっとこう、ガッと攻めて、業界をあっと言わせたいんだよ! なんでわかんないかなぁ!」
普通の社員は「はぁ……(意味不明です)」と困惑し、思考停止します。
しかし、向いている人は、このポエムを脳内で瞬時に翻訳します。
- 社長のポエム
「ガッと攻める」 - あなたの脳内翻訳
「なるほど。既存事業の成長率は前年維持とし、リソースの余剰分を全て新規事業Xに集中投下する。投資比率を現在の10%から30%に引き上げるということですね」 - アクション
それを「来期事業計画書」というExcelの数字の羅列と、PowerPointのロードマップに落とし込む。
この「抽象(Abstract)から具体(Concrete)への変換能力」
社長の熱量を殺さずに、現場の課長クラスが「よし、じゃあ来週からこれをやればいいんだな」と理解できるタスク(KPI)にまで分解するスキルこそが、経営企画のコアコンピタンスです。
特徴2:【高性能サンドバッグ】「板挟み」の衝撃を吸収できる
経営企画は、社内で最も「挟まれる」ポジションです。
特に「中期経営計画(中計)」や「次年度予算」を作る時期(9月〜12月頃)になると、地獄を見ます。
- 上(経営層)から
「なんでこんな低い目標なんだ! もっとストレッチ(高い目標)させろ! 株主に説明できないぞ!」と詰められる。 - 下(現場)から
「こんな数字、達成できるわけないだろ! お前ら現場を知らないくせに、勝手に数字遊びしてんじゃねえ!」と各部の部長に怒鳴られる。
向いている人は、この「全方向からのヘイト(敵意)」を、個人的な恨みとして受け取りません。
「社長の焦りもわかる。現場の疲弊もわかる。……さて、両者がギリギリ納得する『落とし所(着地点)』はどこだ?」
感情を一旦切り離し、車のサスペンションのように衝撃を吸収する「緩衝材」としての役割。
「みんなが私に文句を言うのは、私が会社の中心(へそ)にいるからだ」と、ある種の鈍感力と誇りを持って耐えられる人は、最強の調整役になれます。
特徴3:【根回しの達人】会議の「前」に勝負を決める
ドラマに出てくるような「会議室での鮮やかなプレゼンで、反対派を論破して逆転!」なんてシーンは、現実の経営企画には存在しません。
経営会議で議論が紛糾している時点で、その企画担当者は二流です。一流の企画屋は、会議が始まる前に勝負を決めています。
向いている人は、「根回し(Nemawashi)」のプロフェッショナルです。
- 事前工作
会議の3日前までに、反対しそうなキーマン(〇〇専務や〇〇本部長)の席を個別に回り、タバコ部屋やランチで接触する。 - ガス抜き
「専務、今度の会議でこの案を出そうと思うんですが、専務が一番懸念されているのは『人員配置』ですよね? そこはちゃんと修正しておきましたから」 - バーター取引
「〇〇部長、この高い売上目標を飲む代わりに、欲しがっていた『採用予算』は倍増させますから。なんとかお願いします」
こうして、会議が始まった瞬間には、すでに全員が「Yes(または黙認)」と言うように仕組んである。
「社内政治」と言うと聞こえは悪いですが、この泥臭い「合意形成力」こそが、組織という巨大な機械を動かす潤滑油になります。
特徴4:【数字のストーリーテラー】Excelの向こうに「現場の汗」を見る
経営企画は、一日中Excelと睨めっこをして、「予実管理(予算と実績の比較)」を行います。
「売上が5%未達です。販管費が超過しています」と報告するだけなら、AIでもできます。
向いている人は、無機質な数字の羅列から「現場のストーリー(血と汗)」を読み取ります。
- 分析
「A支店の売上が落ちている。数字だけ見るとサボっているように見えるけど、実は競合他社が駅前に大型店を出した影響だな。店長の責任じゃない」 - 予測
「B支店は数字達成しているけど、残業時間が異常に増えているし、経費精算が遅れ始めている。これは現場が崩壊寸前だ。来月あたり誰か辞めるぞ」
数字は結果でしかありません。その裏にある「原因(現場の動き)」を想像し、
「社長、数字は未達ですが、A支店は今耐える時期です。叱責するのではなく、販促費を投下して支援すべきです」
と提言できる。
「冷徹な計数感覚」と「温かい現場感」のバランスを持てる人が、真の参謀です。
特徴5:【悲観的なロマンチスト】夢を見ながら、最悪を計算する
社長は「楽観的なロマンチスト」でなければ務まりませんが、その右腕である経営企画は「悲観的なロマンチスト」でなければなりません。
社長が「この新規事業で世界を取る! 絶対にいける!」と息巻いている時、
一緒に「やりましょう! 素晴らしいです!」と盛り上がりつつ、手元のPCでは、
「もし失敗した場合の撤退ライン(損切り)はどこか?」
「資金ショートのリスクは何ヶ月後に来るか?」
「法務リスクはクリアしているか?」
を冷静に計算している。
アクセルをベタ踏みする社長の横で、いつでもサイドブレーキを引けるように準備しておく。
「夢(ビジョン)」を信じる心と、「リスク」を直視する目。
この矛盾する二つを同居させられる人が、会社を生存させることができます。
AI時代、経営企画は「集計係」から「変革者(Change Agent)」へ
「数値の集計やレポート作成はAIで自動化されるから、経営企画は不要になる」
そんな議論がありますが、それは業務の表面しか見ていない意見です。
確かに、予実管理のグラフ作成や、市場データの分析はAIの方が圧倒的に得意でしょう。
しかし、今回紹介した「社長の意図を汲み取る」「各部署の利害を調整する」「現場のモチベーションを考慮して目標を設定する」という仕事は、AIには絶対に不可能です。
AIは、「この目標数字は論理的には正しいが、これをこのタイミングで出すと、営業部長のプライドが傷ついて逆効果になる」という「感情の変数」を計算できません。
AIは、喫煙所でキーマンに「まあまあ、今回だけは頼みますよ」と缶コーヒーを渡すことはできません。
面倒な集計作業から解放されたあなたは、より深く組織に入り込み、人と人を繋ぎ、会社を変革する「Change Agent(変革の仕掛け人)」としてのキャリアを歩むことになります。
まとめ:あなたは会社の「羅針盤」だ
もしあなたが、
「毎日調整ばかりで、自分の仕事が見えない」
「上からも下からも文句を言われて辛い」
「自分には何の専門スキルもないんじゃないか」
と悩んでいるなら、思い出してください。
あなたが調整しなければ、会社は1ミリも動きません。
あなたが翻訳しなければ、社長の声は現場に届きません。
あなたは、巨大な船の「羅針盤(コンパス)」であり、バラバラになりそうな組織を繋ぐ「関節」です。
地味で、泥臭くて、最高にストレスフルな仕事です。
でも、その苦労の分だけ、会社が成長した時の景色を、誰よりも高い場所(経営視点)で見ることができる。
それが、経営企画という仕事の特権です。
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