「お茶汲み」? いいえ、あなたはボスの「外付けハードディスク」であり「生命維持装置」です。
「秘書になりたいです。気配りには自信がありますし、人をサポートするのが好きなので」
もし採用面接でそう言われたら、私は意地悪くこう問い返します。
「では、ボスの顔色だけを見て、今『話しかけるな』か『報告しろ』か、0.1秒で判断できますか? ボスが嫌いな取引先の担当者の名前を、全員暗記していますか?」
世間一般のイメージ(ドラマや漫画)では、「社長の隣で微笑んでいる人」「お茶汲みとレストラン予約係」かもしれません。
しかし、本物の秘書(エグゼクティブ・アシスタント)は、そんな甘いものではありません。
多忙を極め、決断疲れしている経営者(ボス)の脳の一部になり、物理的に足りない手足を補う仕事です。
ボスが「あー、あれどうなった?」と主語なしで言えば、「〇〇商事の件の進捗ですね、こちらです」と資料が魔法のように出てくる。
ボスが「来週の出張、気が重いな」と呟けば、「新幹線は隣に誰も来ない席を取りました。帰りに、社長がお好きなあの銘柄の日本酒が飲めるお店も予約しておきました」と返す。
あなたが機能しなければ、ボスは時間に遅れ、判断を誤り、メンタルを崩し、最悪の場合は会社が傾きます。
つまり、あなたのパフォーマンスが、そのまま会社の業績(株価)に直結するのです。
今回は、そんなプレッシャーの中で、しかし誰よりも経営者の近くで「帝王学」を学べる秘書に向いている人の「リアルな適性」を5つ紹介します。
必要なのは、華やかさではありません。
自分を消して相手に憑依する「没入感」と、ボスを子供のように管理する「猛獣使い」の才能です。
特徴1:【脳内ジャック】ボスの思考回路と「完全同期」できる
優秀な秘書は、ボスと「脳内同期(シンクロ)」しています。
ボスがいちいち細かく指示を出さなくても、
「ボスならこの案件は断るだろうな」
「ボスなら、このメールの『検討します』という言葉にカチンと来るだろうな」
と、手に取るようにわかります。
向いている人は、「ノンバーバル・コミュニケーション(非言語情報)」への感度が異常に高いのです。
- 観察
「今朝の『おはよう』の声が半音低い。昨日の会食で何かあったな。午前中のアポは少しゆとりを持たせよう」 - 予測
「貧乏ゆすりを始めた。この来客の話に飽きているサインだ。そろそろ『社長、次のお時間です』と助け舟を出して強制終了させよう」
言葉にされない空気、視線、呼吸、歩くスピードから、相手の思考と体調を読み取る。
まるで「ボスの分身」あるいは「高性能なAI搭載の外付けハードディスク」のように、思考と記憶を共有できる人は、ボスにとって「手足」以上の「臓器」のような存在になります。
特徴2:【時間の魔術師】スケジュールという名の「テトリス」を制する
秘書の最大のミッション、それは「ボスの時間を創出すること(Time Creation)」です。
しかし、それは単に空いている枠に予定をパズルのように埋めることではありません。
向いている人は「時間の質(エネルギー)」をデザインします。
- 集中力の管理
「重要な経営会議の直前に、細かい経費精算の時間を入れない。頭の使い方が違うから疲れてしまう」 - 移動のロジック
「この移動はタクシーだと渋滞リスクがある。雨予報だから地下鉄で行くルートを提案しよう。最寄りの出口はB3だ」 - バッファの確保
「前の会議が長引く癖がある相手だ。移動時間に15分のバッファ(予備時間)を隠しておこう」
分刻みのスケジュールという「テトリス」を、ボスの体調やバイオリズム、天候、相手の性格に合わせて完璧に組み上げる。
あなたが作ったレールの上を走れば、ボスは迷わず、疲れず、最高のご機嫌でパフォーマンスを発揮できる。
あなたは、ボスの人生を操る「タイムコーディネーター」なのです。
特徴3:【鉄の門番】笑顔で「NO」と言い、ボスを隔離する
経営者の元には、毎日無数の「会ってください」「営業させてください」「取材させてください」という連絡が来ます。
これを全て通していたら、ボスは過労死しますし、本当に重要な決断をする時間がなくなります。
向いている人は、「鉄壁のゲートキーパー(門番)」です。
どんなに偉い取引先でも、有名企業の役員でも、今のボスにとって不要だと判断すれば、
「大変申し訳ございません。あいにくその期間は出張が重なっておりまして……(ニッコリ)」
と、最高に丁寧な言葉遣いで、しかし断固としてシャットアウトします。
「冷たい秘書だ」「融通が利かない」と相手に思われるかもしれません。
しかし、それは秘書にとって勲章です。
「嫌われ役は私が引き受ける。だからボスは、誰に気兼ねすることなく経営に集中してください」
という覚悟を持てる人だけが、ボスの聖域(サンクチュアリ)を守ることができます。
特徴4:【黒衣(くろこ)の美学】手柄はすべてボスに譲れる
秘書は、決して表舞台には立ちません。
あなたが数日かけてリサーチし、手配した極上の手土産のおかげで、難航していた商談がうまくいったとします。
それでも、相手から「さすが〇〇社長、センスがいいですね!」と賞賛されるのはボスです。
あなたが徹夜で推敲し、感動的なフレーズを盛り込んだスピーチ原稿で会場が涙についても、拍手を浴びるのはボスです。
向いている人は、この状況に不満を持ちません。
むしろ、
「ふふ、私の演出通りにボスが輝いているわ。計画通り」
と、舞台袖の暗闇で一人ほくそ笑むことができる「黒衣(くろこ)の美学」を持っています。
自分の承認欲求を消し去り、「他人の成功」を「自分の作品」として楽しめる。
この精神性こそが、秘書という職種の最も高潔で、そして最も難しい部分です。
特徴5:【地雷探知機】オフィスの「空気」を読み、裸の王様にさせない
ボスは孤独です。
社長室や役員室にこもっていると、現場の「リアルな空気」や「社員の本音」がわからなくなります。
イエスマンばかりに囲まれ、裸の王様になってしまうリスクが常にあります。
向いている人は、社内を歩き回り、給湯室やエレベーターでの会話から、組織の「地雷」をいち早く察知します。
そして、絶妙なタイミングでボスにだけこっそり耳打ちします。
- 「社長、今度のプロジェクト、A部長とB部長は仲が悪いので、席順は離した方がいいですよ」
- 「最近、現場で『新方針についていけない』という噂が流れています。早めにフォローのメッセージを出した方がいいかもしれません」
ただのイエスマンではありません。
ボスが見えていない死角(ブラインドスポット)をカバーし、組織の崩壊を防ぐための「生きたセンサー」。
時には耳の痛いことも言える信頼関係こそが、長期政権を支えます。
AI時代、秘書は「調整役」から「ビジネスパートナー」へ
「日程調整やレストラン予約はAI(コンシェルジュサービス)ができるから、秘書は不要になる」
そんな議論がありますが、それは「作業」しか見ていない人の意見です。
確かに、SiriやChatGPTは優秀なアシスタントになるでしょう。
しかし、今回紹介した「ボスの顔色を読む」「社内の政治的な空気を読む」「あえて嫌われ役を買って出る」という仕事は、感情を持たないAIには絶対に不可能です。
AIは、「今日はボスが奥さんと喧嘩して機嫌が悪いから、お茶を少し濃いめにして、報告は午後に回そう」という「忖度(そんたく)」や「配慮」はできません。
面倒な予約作業をAIに任せたあなたは、より深くボスの心に寄り添い、経営判断をサポートする「ビジネスパートナー(Executive Business Partner)」としての地位を確立します。
究極的には「ボスと二人三脚で会社を経営している」という、他の職種では味わえない強烈な当事者意識を得られるはずです。
あなたはボスの「人生」そのものを背負っている
もしあなたが、
「誰かのサポートなんて、地味な仕事だ」
「自分の人生を生きていない気がする」
と悩んでいるなら、思い出してください。
歴史上の偉大な経営者やリーダーの後ろには、必ず偉大な秘書がいました。
彼らが世界を変える仕事に集中できたのは、秘書が時間を守り、健康を守り、精神を守っていたからです。
ボスが輝いているのは、あなたが照明を当てているからです。
あなたは、間接的に世界を変える手伝いをしているのです。
その誇りを胸に、今日も最高の笑顔で「いってらっしゃいませ」とボスを戦場へ送り出してください。
あなたの「隠れた才能」と「お疲れ度」、こっそり測ってみませんか?
「記事を読んで『これ私のことかも?』と思ったけど、実際どうなんだろう?」
「ボスの顔色を伺いすぎて、最近自分の表情筋が固まっているかも……」
そんなふうに思った方のために、うしろぽっけでは2つの無料診断を用意しました。
どちらも登録不要、休憩時間の1分でできるので、仕事の息抜きにポチポチっと遊んでみてください。
① 12問でわかる「バックオフィス適職診断」
一口に事務職と言っても、「数字に強い経理タイプ」もいれば、今回の記事のように「人を操るのが得意な秘書タイプ」もいます。
心理学(RIASEC理論)に基づいて、あなたの性格が一番輝くポジションを分析します。
② 笑うのに疲れたら。「職場ピエロ度診断」
秘書は、ボスの前でも来客の前でも、常に完璧な振る舞いが求められます。
「私がミスをしたらボスの顔に泥を塗る」と、気を張り詰めていませんか?
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