結局、私たちは1日中「板」を叩いている
「業務効率化」という言葉、毎日のように聞きますよね。 便利なタスク管理ツール、自動化してくれるSaaS、そして最新のAI。世の中には「これを使えば仕事が速くなる!」という情報で溢れています。
でも、ふと冷静になって自分の手元を見てみてください。 私たちが仕事をしている時間、つまりパソコンに向かっている時間の9割くらいは、「キーボードというプラスチックの板を、指でペチペチ叩くこと」に費やされていませんか?
メールの返信、Slackやチャットワークでの連絡、資料作成、プログラミング。 どんなに素晴らしいツールを導入しても、最終的に文字を打ち込むのは「自分の指」です。
だとしたら、月額数千円のツールを契約するよりも、「タイピング速度を極限まで上げる」ことこそが、一番コスパの良い最強の効率化なんじゃないか?
……最初はそう思って書き始めたんです。でも、考えていくうちに「いや、本当にそうか?」と迷いが出てきました。今回は、そんな行ったり来たりする思考にお付き合いください。
AI時代になって、逆に「文字」が増えていないか問題
「AIが普及すれば、人間がキーボードを打つ仕事なんてなくなる」 少し前までそう言われていました。でも、実際にChatGPTなどが普及した今、どうでしょう。
むしろ、打つ文字数、増えていませんか?
AIにいい仕事をしてもらうためには、「プロンプト」と呼ばれる指示文を打たないといけません。 「以下の条件で要約して」「ターゲット読者は30代で」「もっと親しみやすいトーンで書き直して」……。 AIとチャットのラリーを続けるたびに、私たちはものすごい量の文字を打ち込んでいます。
自分の思考スピードに指が追いつかないと、「あーもう、打つのめんどくさい!」とイライラしますよね。 AIというF1カーのような相棒がいても、指示を出す私たちの指が軽トラの速度だったら、結局そこで渋滞が起きてしまうわけです。
やっぱり、タイピング速度こそが正義なんでしょうか。
いや待てよ、「音声入力」の方が最強説
ここで、もう一人の自分が「待った」をかけます。 「物理的な速さだけで言えば、手より口(音声)の方が速いに決まってるじゃん」と。
実際、数字で見ると残酷なほどの差があります。
- 人が話す速度
1分間に約150〜200文字 - タイピング速度
一般的な人で1分間に50〜60文字(速い人でも100文字くらい)
単純計算で、音声入力はタイピングの2倍以上のスピードが出せます。 最近の音声認識(Googleドキュメントの音声入力やWhisperなど)の精度は怖いくらい高いので、誤字もほとんどありません。
「効率」だけを追い求めるなら、キーボードなんて捨てて、全部マイクに向かって喋るのが正解のはずです。
なぜ私たちはオフィスで「音声入力」を使わないのか
でも、現実を見てください。 静まり返ったオフィスや、スタバの作業席で、PCに向かってブツブツと独り言を喋って仕事をしている人はほとんどいません。
なぜか。理由は単純で「なんか無理」だからです。
1. 心理的なハードル(恥ずかしい)
やっぱりこれです。「えー、お世話になっております。昨日の件ですが、点(、)」とオフィスで呟くのは、相当な強メンタルが必要です。「あの人、独り言言ってる…」と思われる恐怖には勝てません。
2. 「喋りながら考える」の難しさ
こっちの方が本質的な問題かもしれません。 チャットやメールを打つときって、最初から完璧な文章が頭にあるわけじゃないですよね。 「お疲れ様です」と打ちながら、「あれ、この用件ってどう伝えると角が立たないかな…」と考えながら指を動かしているはずです。
音声入力だと、その「迷い」や「えーと」というノイズまで全部文字になってしまいます。 喋るスピードが速すぎて、脳みその整理が追いつかないんです。
……あれ?
ここまで書いていて、ひとつ重要なことに気づきました。
「思考の整理が追いつかない」と言いましたが、キーボードで打っている今も、私はかなり迷いながら書いています。 打っては消し、打っては消し。
もしかして、キーボード入力がこれほど廃れない本当の理由は、「打つのが速いから」じゃなくて、「〇〇のが速いから」なんじゃないでしょうか?
実は「書く」ことより「消す」ことの方が大事かも
ここで、ちょっと視点を変えてみます。 音声入力を使おうとしたときに感じる「なんとなく使いにくい感じ」。あれの正体って何だろうと考えてみたんですが、たぶん「修正のしにくさ」にある気がします。
「あ、今のなし」が秒でできるのがキーボード
音声入力は、どんどん言葉を足していく「足し算」は得意です。でも、「引き算」がものすごく苦手なんですよね。
例えば喋っている途中で「あ、この言い方はちょっとキツイかな?」と思ったとします。 音声入力だと、「…あ、今の消して。えーと、そうじゃなくて」と言葉で修正指示を出すか、一度入力を止めてマウスで選択して削除する必要があります。これ、結構面倒くさいですよね。せっかく乗っていた思考がそこで止まっちゃいます。
一方でキーボードはどうでしょう。 「お世話になっており…」まで打って、「いや、ここは『先日はありがとうございました』から入ろう」と思い直したら、無意識のうちにBackSpaceキーをタタタッ!と連打していますよね。
私たちが文章を書くときって、頭の中に完璧な完成図があってそれを書き写しているわけじゃないんです。書きながら考えて、間違えては消して、を繰り返して形にしているんですよね。
仕事の文章は「彫刻」に似ている
そう考えると、ビジネスメールや資料作成って、粘土をどんどん盛っていく作業というよりは、削って整える「彫刻」に近いのかもしれません。
- 余計な言葉を削る
- 誤解されそうな表現を直す
- より適切な単語に置き換える
この「微調整」の連続には、音声入力よりもキーボードの方が圧倒的に向いています。 だから、いくら音声認識のAIが進化しても、私たちがキーボードを手放せないのは「BackSpaceキー」という最強の武器があるからだと思うんです。
結論:どっちが「最強」なの?
ここまで迷いながら考えてきましたが、現時点での私の結論を出してみたいと思います。 要は「使い分け」**なんじゃないか、ということです。
1. 「ゼロからイチ」を作るなら音声入力
真っ白な画面を前にして「何を書けばいいかわからない…」と手が止まってしまう時ってありますよね。 そういう時は、思い切って音声入力を使うのが最強です。
- 構成なんて気にしない
- 誤字脱字も気にしない
- とにかく頭にあるモヤモヤを全部喋って文字にする
こうやって「素材」を大量に出す段階では、タイピングよりも喋るほうが圧倒的に速いです。散歩しながらスマホに向かってアイデアを吹き込む、なんてやり方もいいですよね。
2. 「イチを100」にするならキーボード
ある程度素材が出揃って、それを「人に見せられる形」に整える段階。ここはキーボードの出番です。 「てにをは」を整えたり、行間を調整したり、相手に響く言葉を選び直したり。この「仕上げ」の作業は、指先でカチカチとやるのが一番効率的で、品質も上がります。
明日からできる、地味だけど確実な効率化
「最強の効率化はこれだ!」と派手に言い切りたいところですが、現実はもっと地道なものです。 私たちが明日から意識できることは、たぶんこの2つです。
① 音声入力への「恥ずかしさ」を少し捨てる
まずは、誰もいない会議室や自宅で、アイデア出しの壁打ち相手としてAIに話しかけてみてください。 「記事のネタがないんだけど、どう思う?」と話しかけるだけで、驚くほどたたき台が早く作れます。これに慣れるだけで、仕事の初速は確実に上がります。
② タイピングは「速さ」より「止まらないこと」を目指す
タイピングゲームでハイスコアを目指す必要はありません。 ただ、「自分が考えているスピードと同じ速さ」で打てるようになると、仕事のストレスが激減します。
思考に対して指が遅れると、脳が「待て」をくらってイライラします。逆に、思考と同じ速度で指が動けば、それはもう身体の一部です。「ブラインドタッチなんて今さら…」と思わず、一度基本のホームポジションを見直してみる。それだけで、一生使える「時間」が手に入るとしたら、結構いい投資だと思いませんか?
さいごに
結局のところ、新しいツールを探し回るよりも、「自分の指」と「自分の口」をどう使いこなすかを見直すほうが、仕事はずっと楽になるのかもしれません。
さて、この記事を書き上げるのに、私は何回BackSpaceキーを押したんでしょうか。 数えたくもありませんが、その「消した数」の分だけ、読みやすい記事になっていれば嬉しいです。