オフィスに最新のクラウドシステムや基幹システムが導入された日、経営会議室では「これで我が社の生産性は劇的に向上する」と高らかな宣言がなされたはずです。しかし、それから数ヶ月が経ち、現場の風景はどう変わったでしょうか。
期待していた「スマートな働き方」とは裏腹に、社員たちは以前よりも険しい顔でPCに向かい、ひたすらExcelを叩き、CSVファイルをこねくり回している。システムのダッシュボードには綺麗なグラフが並んでいる一方で、その裏側では、担当者が夜遅くまで「データを整える作業」に追われている……。
「数千万円、時には数億円を投じてDXを推進したはずなのに、なぜ現場は以前より疲弊しているのか?」
「なぜ残業代は減らず、むしろ『入力が大変になった』という不満が聞こえてくるのか?」
その答えは、システムの性能不足ではありません。「最新のシステムに、正しいデータを食べさせるための下準備(前処理)」という、あまりにも泥臭く、あまりにも膨大な『名もなき仕事』が現場に爆発的に増えてしまったからです。
今回は、派手なIT導入の陰に隠され、大手ベンダーやコンサルタントが決して触れようとしない「データ加工という苦行」の正体と、それを終わらせるための現実的な処方箋について、じっくりとお話しします。
1. システムは「偏食」であるという不都合な真実
最新のSaaSやERPは、確かに優秀です。しかし、それらは非常に「偏食」な生き物です。
決められたフォーマット、寸分違わぬ項目名、完璧に統一されたマスタデータ。これらが揃った「綺麗なデータ」を与えなければ、彼らは本来の性能を発揮してくれません。
一方で、私たちが日々向き合っている現実のビジネスデータは、いつも泥臭く、不揃いです。
- 取引先ごとにバラバラな形式
A社はPDF、B社はExcel、C社は独自のWEBフォーム。 - 表記ゆれの地獄
「株式会社」と「(株)」、全角の「1」と半角の「1」、スペースの有無。 - システム間の「方言」
会計ソフトでは「売上高」と呼び、販売管理ソフトでは「受注額」と呼ぶ。
これらの「生のデータ」を最新システムに放り込むために、現場の社員は毎日、何時間もかけてExcelを駆使し、置換を繰り返し、コピペを重ねてデータを整えています。
これこそが、私が提唱する「システムの食事作り」です。
高度なDXを進めれば進めるほど、システム側が求める「食事」の質は高くなり、その下準備(前処理)の難易度は上がっていきます。現場の負担は減るどころか、この「食事作り」によってじわじわと蝕まれていくのです。
2. 脳のスタミナを奪う「スイッチングコスト」の恐怖
ここで、経営者や決裁者の方に知っておいていただきたい数字があります。
それは、人間が一度中断された集中力を取り戻すのにかかる時間です。カリフォルニア大学の研究によれば、その時間は平均して「約23分」と言われています。
データの前処理という作業は、この「集中力」をズタズタに切り裂きます。
企画書を書いている最中に、システムから「エラー:データ形式が不適切です」と突き返される。慌ててExcelを開き、原因を探し、一文字修正して再アップロードする……。
作業自体は数分かもしれません。しかし、その数分のために、あなたの社員の脳は「深い思考」から「単純作業」へと強制的に切り替えられ、再び元の思考に戻るために多大なエネルギーを浪費します。
夕方、何も大きな仕事をしていないはずなのに、ドッと疲れ果てて動けなくなる社員。その原因は、この「細かな前処理による脳のスタミナ切れ」にあります。これを放置することは、組織の創造性をドブに捨てているのと同じです。
3. なぜ「ラストワンマイル」でDXは敗北するのか
物流の世界では、巨大な拠点を結ぶ長距離輸送よりも、最終的に個人の玄関まで届ける「ラストワンマイル」が最も難しく、コストがかかると言われます。
事務のデジタル化も、構造は全く同じです。
大きなデータの流れを作るのが「基幹システム」なら、現場の手元にある「生のデータ」を、システムが受け取れる形に整える「最初の一歩」こそが、DXにおけるラストワンマイルです。
多くの企業は、ここを「人間の頑張り(=手作業)」で解決しようとします。
「VLOOKUPを使えばすぐ終わるだろう」「ちょっとCSVを加工するだけだから、事務スタッフに任せよう」
そんな言葉で片付けられてきた「名もなき仕事」が積み重なり、巨大な山となって現場を塞いでいます。大手ベンダーは「入力画面は用意しました」と言いますが、その画面に入力するまでの「泥臭い過程」までは面倒を見てくれません。こここそが、DXが敗北し、現場が疲弊する最大の空白地帯なのです。
4. 解決策は「大きなシステム」の刷新ではない
では、どうすればこの状況を打破できるのでしょうか。
私は、数億円をかけてシステムを丸ごと入れ替えることが正解だとは思いません。むしろ、そんな「大掛かりな手術」をしても、また別の隙間が生まれるだけです。
今必要なのは、「今ある道具(システム)と、現場の人間」の間に、そっと寄り添う「小さな橋」を架けることです。
具体的には、以下のような「マイクロツール」の導入です。
- 自動変換ロボット
バラバラなCSVやExcelを読み込み、一瞬で「システムが食べられる形」に整形して出力する。 - 名寄せの自動化
AIやプログラムを活用し、「株式会社」の有無や全角半角の差を自動で修正し、突合する。 - UIの最適化
複雑なシステムを直接触るのではなく、現場が使い慣れた入力画面(Excelやスマホアプリなど)からデータを送り込めるようにする。
これらは、大手ベンダーからすれば「小さすぎて商売にならない」ニッチな困りごとです。しかし、この小さな隙間を埋めるだけで、現場の社員は「システムに仕える作業」から解放され、本来の「価値を生む仕事」へと戻ることができます。
5. 道具に「優しさ」を持たせるという思想
「うしろぽっけ」が開発するツールは、単に効率を追及するだけではありません。
私がデザイン(UI/UX)に異常なほど執着するのは、「仕事の合間に触れる道具が、冷たく、無機質なものであってほしくない」という思いがあるからです。
データ加工というストレスフルな作業を代替する道具が、さらに使いにくく、覚えにくいものであれば、それは新たな「ささくれ」を生むだけです。
丸みを帯びたボタン、そして「次に何をすればいいか」を画面が優しく教えてくれる設計。
これらは単なる「見栄え」の問題ではありません。
「この道具を使えば、今日の仕事は早く終わる」という安心感を提供し、社員の心理的なハードルを下げるための、不可欠な要素なのです。
6. PMOとしての10年が見た、現場の「声なき悲鳴」
私は10年近く、ITプロジェクトの裏方(PMO)として、多くの企業の「DXの最前線」を見てきました。そこで耳にしたのは、経営層が期待するバラ色の未来ではなく、現場の担当者が吐き出す「もう限界です」という溜息でした。
立派な仕様書には書かれない、日々の「コピペの繰り返し」。
誰も読んでいない報告書を作るために、夜遅くまでフォントやインデントを揃える時間。
システム間のデータの整合性が取れず、最後は電卓を叩いて確認する虚しさ。
これらの「澱(よどみ)」を一つひとつ取り除いていくこと。
それこそが、本来のDXが目指すべき「人間中心の変革」ではないでしょうか。
「うしろぽっけ」は、御社の現場に深く潜り込みます。
立派なコンサルティング資料を作るのではなく、明日から現場の誰かが「あ、これ便利だね」と笑ってくれるような、小さな、けれど確かな手触りのある道具を作ります。
【まとめ】「システムに仕える人」を、「システムを乗りこなす人」へ
履歴書から「VLOOKUPが使えます」という文字が消える日。それは、人間がデータの継ぎ接ぎ(つぎはぎ)という苦行から解放される日です。
もし、御社のDXが「どこか重苦しい」と感じるなら。
それは、現場の社員がシステムの「食事担当」になってしまっているサインです。
技術は、人間を自由にするためにあるべきです。
システムの都合に人間を合わせるのをやめ、今の業務フローに寄り添った「優しい仕組み」を一つ置くだけで、組織の空気は劇的に変わります。
御社の現場で、毎日繰り返されている「データのこねくり回し」の話を聞かせてください。
立派な依頼書は要りません。その「愚痴」こそが、私たちが解決すべき課題の正体です。
DXの「隙間」を埋める仕組みづくり
「システムを入れたけれど、結局手作業が減っていない」
「データの加工だけで1日が半分終わってしまう」
「現場の疲弊を、何とかして食い止めたい」
そんな経営者・決裁者の皆様からのご相談をお待ちしております。
大規模なシステム刷新は不要です。今ある道具を活かしながら、痛いところに手が届く「小さな改善」から、組織の心地よい変革を始めてみませんか。
PMOとしての経験を活かし、現場の混乱を「整った仕組み」へと翻訳させていただきます。
※ 強引な営業は一切いたしません。まずは現場の「困りごと」をじっくりとお伺いします。